葉月のワイン吟行


「葉月のワイン吟行」vol.2
「山形ヴァン、トレビアンだじぇ:その1」

青山葉月

 最近、日本ワインの市場が安定した盛上がりを見せている。ワイン・ジャーナリストが今、最も注目しているのが日本ワインらしい。日本ワインの大ファンとしては、とても嬉しい。とりわけ個人的にアツいのが、山形県だ。

 合コンで隣に座った物静かな殿方に、「山形県と聞いて、何を連想なさいますか?」とぎこちなく話しかけたところ、いきなりのディープな質問に3分間じっとり固まって、「サクランボと……天童の将棋の駒ぐらいですかねぇ」と申し訳なさそうに答えた(若い身空で将棋の駒の話が出てきたのは意外。絵が好きな私は、いつも日曜日の朝9時からEテレの『日曜美術館』を見ていて、たまに、チャンネルをそのままにしていると、次の『NHK将棋講座』になだれ込み、「先手8三桂成らず後手同銀左」なんて「外国語」を聞くことがある)。山形と聞いて、私なら、「まず、タケダワイナリーでしょ、それから、高畠ワインに、酒井ワイナリーに、最近は月山ワインも……」と即答できる。ワイン王国として、急成長している山形県。その「山形ワイン」のブームに乗り、山形のワイナリー11社が東京で一同に会するイベント、『山形ヴァンダジェ』が3月に開かれた。

 イベント名は『山形ヴァンダジェ』。仏語で「収穫」を意味する「ヴァンダンジュ」に、「だぜ」の山形弁、「だじぇ」をかけた造語だ。2013年度の流行語大賞の一つが、NHKの朝の連ドラ、『あまちゃん』で一躍大フィーバーした岩手三陸地方の方言、「じぇじぇじぇ」だった。2014年度は、この山形弁の「だじぇ」が流行語大賞に選ばれるかも……。「だじぇ」の使用例は、「ねぇ、今度、二人でワイン・デートしようよ。キュヴェ・ヨシコを買ったんだじぇ」のように使う。ちなみに「ヴァン(Vin)」は仏語でワインを意味するので、「"山形ワイン"だじぇ」とも解釈できる。カワイイおやじギャグのようで、ナイスネーミングだ。 昨年が初開催だったけれど、評判が良かったらしい。


葡萄酒に山形訛り混じりたる はづき

 昨年と大きく違うのは、料金が1,000円アップし、2部制になったこと。かなり、強気だじぇ。料理引換え券をもらい、料理を受け取るとスタンプを押してくれる。これは去年と同じ形式だ。引換え券は、なくしても再発行不可なので、料理を受け取る前に落とすと、無念のリタイアとなる。一緒に行った知人がイベントの序盤で券を紛失し、つぶらな瞳に涙を浮かべて私を見つめたが、食い意地にかけては、「伝説のWBA、WBC、IBF統一世界ヘビー級チャンピオン」、レノックス・ルイス(コアなネタですいません。元彼が強烈なボクシングおたくだったので……)より強い私は、一皿でも譲るなんて同情心は1ccもない。

 このイベントでは、山形の食材を使ったこだわりの料理も楽しみのひとつ。昨年は、山形随一のイタリアン・レストラン、「アルケッチャーノ」の料理を東京で食べられると話題になった。今年は、イタリア・ヴェネト州帰りのシェフがオープンした新進気鋭のイタリアン、「イルコテキーノ」がお江戸にやって来た。シェフ自ら切り分ける自家製ハム、サラミの盛り合わせ(シャルキュトリー)は見るからにボリューミーで肉々しく、何ともフォトジェニック。思わずカメラ小僧に変身し、脇目もふらず、シャッターを連写した。

 山形は、地理的には、村山地方、最上地方、置賜地方、庄内地方の4つに分かれる。それぞれ、気候や文化が違うらしいが、ワイン・クレージーの私には、3地方になる。

 まず、「庄内エリア」では、山ぶどうやヤマ・ソービニオン(山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配品種)で高品質なワインを作る「月山ワイン」が有名だ。「山形のボルドー地方」か?

 中部の「置賜エリア」には、一番多くのワイナリーが集中する。私は、「山形のブルゴーニュ」と勝手に思っている。日本のシャルドネの造りの奇才、高畠ワインのオーナー、川邊久之さんは、暫くお見かけしないうちに髪がロン毛になっていた。何か心境に変化があったのだろうか。女性は、失恋すると髪を切るというけれど(私は切らない、というか、切れない。切ると坊主頭になってしまうので。おまけに今は10円ハゲができている……)、逆に、髪を伸ばすのは時間がかかる。じわじわと嬉しいことがあったのかも。赤湯の温泉街にシャトーを構える東北最古の酒井ワイナリーからは5代目のイケメン社長、酒井一平さんが来ていた。

 県内最北の「村山エリア」は、北海道・洞爺湖サミットの乾杯用ワインにも抜擢された超高級スパークリング・ワイン、キュヴェ・ヨシコをつくるタケダワイナリーがあるエリアだ。ここはもちろん、「山形のシャンパーニュ」でしょ。

葡萄酒が仲良く争う春日なる はづき

 春といえば、私の永遠の心の師、松尾芭蕉は、元禄二年、「行く春や鳥啼き魚の目に泪」と詠んで江戸の深川を出発した。栃木、福島、宮城から山形へ向かい、日本海側を南下して福井から岐阜を経由して江戸に戻る。有名な『奥の細道』は、その旅の中で、深川から大垣までを書き記したものだ。この「プチ日本一周旅行」は、全行程、2,400kmで、5ヶ月かけて歩いたらしい。その150日のうち、40日を山形県で過ごし、名句をたくさん残した。中学生でも知っている「五月雨を集めて早し最上川」「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」「蚤虱馬の尿する枕元」は、いずれも「山形県産」なのだ。

 芭蕉が山形で詠んだ句の中で、私が一番好きなのは、「眉掃きを俤(おもかげ)にして紅の花」という少しロマンチックな句。「女性が化粧で白粉をはたいた後、眉についた白粉を小さな刷毛で掃く。ここに咲いている紅花を見ていると、その小さい刷毛を思い出す」という細やかでしっとりした状況を吟じた。現代は、たいてい化粧の最後にスポンジ・パフでパウダーをはたいて仕上げをする。急いでいると、眉に白い粉をつけたまま外出し、トイレで気づいて慌てて眉梳きで整えることもしばしば。今はアイシャドーひとつをとっても銀河系の星の数ほど種類があるが、昔だって「お雛様の調度品」みたいに可愛い眉専用の道具があったのだ。女性が美にかける思いは、昔も変わらない。芭蕉は、そんな女心を男性からの細やかな視点で詠んだ。山形のワインも、同様に、繊細でエレガントだ。

 ワインと俳句の役者は揃った。飲み手も揃った。さあ、飲むぞ。

紅花の紅映したるワインかな はづき




青山葉月プロフィール
青山葉月

 雛祭り&マダム・ルロワと同じ三月三日生まれ。ワインコラムニスト。
好きな俳句は同じ鎌倉出身の池田澄子作、「じゃんけんに負けて蛍に生まれたの」 シャンパーニュと日本ワインを偏愛し、ワイン中心の生活を送る。


ブルゴーニュ襟の乱れの麗しき はづき


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