葉月のワイン吟行


「葉月のワイン吟行」vol.3
「山形ヴァン、トレビアンだじぇ:その2」

青山葉月

 「いざ行かん」と心のなかで気合いを入れて、会場を見渡した。出揃った山形ヴァンは全部で約40種類。通常のプロ向け試飲会の場合、テイスティングしたワインの味わいをしっかりと記憶し、仕事に活かすためにも泥酔なんてもってのほか。試飲会の会場で赤い顔をしているとカッコ悪いし、「こいつはただ飲み名人だな」と見ず知らずの他人に思われては堪らないので、口に含んだワインはスピット・バケツという吐き出し用のバケツに吐き出すのが一般的だ(私はつい、ごくりと飲んでしまう。先日ヘロヘロでイイ気分になっていたら、「試飲会で酔ってちゃ、まだまだあまちゃんね。そういえば能念玲奈に似てるね」とお姉さまに諭された……いや褒められた?)。今回は一般愛好家向けのイベントなので、酔っぱらっても無問題。それも造り手自ら注いでくれるとなれば、ついつい(いつも以上に)杯が進む。これが、なんとも気前よく注いでくれるんだな、こりゃ。「今夜は無礼講だじぇ!」と思わず人類皆兄弟とばかりにハグしたくなる。

 このイベントでゲストにとって嬉しいことのひとつは、各ワイナリーの醸造家が会場に来ていること。彼らと直接話ができる滅多にないチャンス!国民的アイドル、AKB48の絶大の人気の秘訣は「いつでも会いにいけるアイドル」という距離の近さがウリだったが、ワイン界でも全く同じ。山形の永遠のマドンナ・ノリちゃんこと岸平典子さん(タケダワイナリー代表)に直接注いでもらうワインの美味しさといったらない。「ワインは喉越しじゃなく、舌で味わうものでしょう。喉越しを求めるなら麦酒を飲めば?」と言い放ち、周囲から「嫌な女!」と白い目で見られる私も、このサンスフルに関しては「うーん、喉越し最高!」と腰に手を当て一気飲みだ。おやじかっ!

 まずはタケダワイナリーのサンスフルを一滴残らず飲み干すと同時に、私の中で開戦のゴングが鳴り響いた。いよいよここでレノックス・ルイス(注:『山形ヴァン、トレビアンだじぇ:その1』を参照)の登場だ!2時間半でどれだけ飲めるかは、時間と自分の肝臓との直球勝負となる。「モタモタしてはいられない」とわき目も振らず目的のブースに突進するさまは、福袋の争奪戦を彷彿とさせる。昔は良く好きなファッションブランドの福袋を買うために、徹夜で開店前のデパートに並んだものだ。ようやくお店が開店し、店員さんが「いらっしゃいませ」の「い…」と言いかけるや否や、鼻息荒く目的の売り場へ猪突突進するのだ。もちろん、売り場への最短ルートはチェック済み。袋の隙間から中の商品が見えないか鼻の下を伸ばしてのぞいたり、袋の膨らみ具合で中身を想像するのも楽しかった。結局、全く趣味と違うピンクのフリルの洋服が入っていたり、クローゼットにあるのと似たような冬物のコートが入っていて、ガッカリして帰ってくる。今となっては、洋服ならユニクロか無印良品。それ以外は雑貨・食品・ワインの福袋以外は怖くて買う気になれない。リスク回避に走るオトナって嫌だね。

 今回のように、自分で好き勝手にワインと料理を飲み食いするイベントで、なけなしの脳みそをフル活用すべきポイントは、引換券でゲットした一皿に何のワインを合わせるかだろう。アルコールを過剰摂取すると、脳の萎縮が生じるという噂を聞いた事がある。恐れおののき、即座に脳科学者の友人に確認しところ、エッチなビデオをよく見る成人では、脳の特定の部分の萎縮が認められるらしいという「棚ぼた情報」を聞いた。脳がアルコールでふやけるのもダメだが、刺激が強すぎるのも良くないらしい。「映像による直接的な刺激は、想像力の欠如につながるのかも……やはり妄想をかき立てる官能小説のほうが脳にはいいわよ」と妙なアドバイスを受けてしまった。刺激に飢えた殿方、どうぞ日本が世界に誇る古典官能小説の代表『源氏物語』をお読み下さいませ。

 一方、脳細胞を活性化するためには、やはり運動が効果的。「頭の回転よさ」をウリにしている経済評論家の勝間和代さんは、自らの強みである「脳」にピカピカに磨きをかけるため、毎日運動を欠かさないそうだ。私は日々の飲酒活動で脳細胞を消費する一方、日本ワインの新規開拓のため、つねに東奔西走(ちなみに、つい最近まで「東奔西走」を「東西奔走」と勘違いしていた。「いいまつがい」の方が東に西に忙しく移動している躍動感が出ている気がする)して息も絶え絶えなので、ボケる心配はないと勝手に安堵している。

 まずは、葉月的マリアージュの大原則1「料理とワインの色を合わせよ」に従って、ゲットしたピンク色のサラミ盛り合わせを片手に、ロゼと軽めの赤を責める実験だじぇ。10種類ほど試飲した中で、サラミと相性抜群だったのは、タケダワイナリーのサンスフル・赤だった。口の中ではじける微発泡の爽やかさといったら、口腔上皮細胞が万歳三唱する様子が顕微鏡なしでも見えるよう。味わいは意外とドッシリ系で、赤ワインに近い。思わず「イタリアのランブルスコに対する日本の解やぁ……」と唸る。ちょっとちょっと、奥様方。「生ハムって、意外にワインに合わせにくいのよね」とボヤく前に、サンスフルを自宅の冷蔵庫に一本常備すべし。疲れて帰ってきた殿方に、「お風呂が先?サンスフルが先?それともわ・た・し?」と3択をせまったなら、間違いなくサンスフルを選ぶだろう(もしくは、お風呂、サンスフルの順)。

 ただし注意しないと天井まで泡が吹くかも。F1では、レースが終わると、表彰台に上った選手・チーム同士でシャンパンをかけあって喜びを表現するシャンパン・ファイトが行われる。その語源はシャンパンが勢い良く吹き上がる様子を気に入ったナポレオン・ボナパルトが、戦勝記念にシャンパンかけを行ったのが始まりだ。現在はマム社の『コルドン・ルージュ』が公式シャンパンだが、私だったらタケダのサンスフルを持っていく。


 春の夜に天高く届く祝い酒 はづき




青山葉月プロフィール
青山葉月

 雛祭り&マダム・ルロワと同じ三月三日生まれ。ワインコラムニスト。
好きな俳句は同じ鎌倉出身の池田澄子作、「じゃんけんに負けて蛍に生まれたの」 シャンパーニュと日本ワインを偏愛し、ワイン中心の生活を送る。


ブルゴーニュ襟の乱れの麗しき はづき


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