葉月のワイン吟行


「葉月のワイン吟行」vol.5
「超・極私的レポート:トルコのワイン事情・その1」

青山葉月

 2ヶ月弱ほど海外放浪の旅へ出た。訪れたのはトルコ、フランス、グルジア、アルメニア、イラン。答えの出ない「自分探し」と後頭部にできた10円ハゲの治癒が目的だが、その傍ら、海外のワイン事情についてもリサーチをしてきた。今回はトルコのワイン事情についての超・極私的レポートをお届けする。
 
 トルコは文化の入り交じるオリエンタルな国。ボスフォラス海峡を境に、ヨーロッパ・サイドとアジア・サイドを簡単に行き来できる。その海峡が重要な境目とは知らずに、気づかぬうちにヨーロッパ・サイドに入ってしまったという旅人は、「5年間アジアを旅してきての念願のヨーロッパ入りなのに、これでは感動がない!」と再度入り直していた。

  早速トルコの酒事情だ。トルコは基本的にはお茶文化で、日に何杯もチャイを飲む。 オジ様たちの娯楽は、チャイハネと呼ばれる茶屋で、水たばことお茶を楽しむこと。一体この人たちはいつ働いているのだろうと不審に思うほど、チャイハネはいつも賑わっている。東南アジアでは、女性より男性がブラブラしているのをよく見かけるが、トルコも同様で、道ばたでお茶を飲んだり、ひたすらぼーっと座っている人は大抵男性だ。


 ムスリムが約9割以上を占めるトルコだが、飲酒に関しては比較的寛容といえる。ただし大衆食堂では酒を出さないところも多く、よく飲まれるのがアイランと呼ばれる塩辛いヨーグルトドリンク。トルコの食事は世界三大料理と言われるだけあり、食の選択肢は豊富だが、肉と小麦中心なのに加え、オリーヴオイルをよく使う。必然的に脂っこい料理が多くなるので、ヨーグルトの塩気と良く合うのだ。好みは分かれるが、私は比較的好きで、ほぼ毎食頼んでいた。

 観光客向けの小洒落たレストランやメイハーネと呼ばれる居酒屋では、酒は普通に飲める。ビール、ワイン、ラクと呼ばれるブドウで造った蒸留酒など、種類は豊富。トルコ人はビールの他に、ラクをとにかく飲む。あるトルコ人は、「味はマズいが、3〜4杯飲むと酔う感覚が気持ちよくなってくる」といいながら、3杯目のラクを一気に飲み干していた。

 私も1杯試したが、かなりクセがある。アニスで香りづけするため、薬草臭い。かつて19世紀後半のヨーロッパで芸術家達を魅了し、その鮮やかな緑色と中毒性から「緑の妖精」と呼ばれた禁断のリキュール、アブサンに少し似ている。アルコール度数は約45度と強いのでチェイサーは必須。水を注ぐと白濁するのはアブサンを初めとするアニス系リキュールに共通だが、それがラクがトルコで「ライオンのミルク」と呼ばれる所以だ。


 お酒の値段は総じて高く感じる。政府が「人々が馬鹿みたいに酒を飲むのはけしからん!」と言わんばかりに酒の関税を高く設定しているため、どうしても市場に出回る時は高価になる。
ちなみにトルコの通貨はトルコリラを使うが、2014年8月当時のレート(1ユーロ=140円=3トルコリラ)で換算すると、レストランではビール1杯約500円、ワインはグラス約500-750円と、日本とほぼ変わらない。


 Wi-fiの使えるオシャレなレストランで、前菜盛り合わせ・ピッツァ・赤ワインを2杯飲むと、会計はニ人で約5,000円程度。デートするのも大変。
ただし、ミネラルウォーター(500ml)=約25-50円、屋台でサンドイッチ=約200円、オシャレなカフェで珈琲=約250円、街中の食堂でお腹いっぱい食べて約1,000円と、飲まない分には節約デートも可能だ。


 2014年3月改訂版の某ガイドブックでは3リラだった路面電車の一区間の料金が、8月時点には1リラ値上がりしているなど、物価上昇の激しいトルコ。

イスタンブールをはじめとする大都市以上に物価が高い街のひとつが、トルコ最南端の地中海沿岸のリゾート地、カシュだろう。ハイセンスなレストランが立ち並ぶヨーロッパ調の街並みで、船で20分程で青の洞窟があるギリシャ領メイス島へ行けることもあり、観光客の人気が高い。

 「best mohito in town」という看板に惹かれ、価格をチェックせずに店イチオシのモヒートを頼んだら、なんと一杯23リラ(1,000円強)。お会計を見て目玉が飛び出た。ジャズの生演奏を聞きながら、高台のテラス席から海を見渡せるロケーションは、確かに最高だった。


 次に、ワインを購入したい場合。
そもそもオシャレなワイン専門店は少なく、一般人が酒を買うには、個人商店かスーパー・マーケットで購入するのがふつう。地方都市でも、一本通りを入ると、アルコール類を買える店が大抵ある。今回は個人商店、スーパー・マーケット、お洒落なワインショップの3つに分けて、売り場をリサーチした。

1.個人商店
 スーパーがないような小さな街でワインをゲットするには、まず個人商店をチェックすべし。ワインの品揃えは、トルコワインが大半だが、カッパドキアのような葡萄の名産地では、その地方のワインが多い。加えてチリ産もよく見かける。一番安いもので約500円〜、主流価格帯は約1,000円〜2,000円程度(750ml)。品揃えはスパークリング・白・ロゼに比べ、圧倒的に赤が多いのが特徴的。

 トルコの赤ワイン用品種といえば、トルコ原産のオクズギョズやボアズケレ、カレジク・カラスといった聞き慣れない地ブドウが有名だが、その他に、カベルネ、メルロー、シラーなどの国際品種もよく見かけた。
  私の好きなシャンパーニュは、マムのブリュットが約12,000円。地方の小売店にシャンパーニュが置いてあることには感動したが、一体いつのNVだろうと思わざるを得ない、誇りの被りよう。さらに悪い事に、ブルゴーニュ系が皆無。これではトルコには住めない。

2.スーパー・マーケット
 大きい街にはスーパー・マーケットがあり、ワインも豊富に揃うが、基本的にはトルコワインが大半。カッパドキア近くの比較的大きなスーパーでは、トルコでよく見るYAKUTやANGORAが約1,300円。日本で購入してもほぼ値段は変わらない。
 外国産は、日本のスーパーで1,000円以下で買えるチリのメルローが約2倍。イタリア産スパークリング・ワイン、Asti社のロゼは約3倍だった。ここでもやはりブルゴーニュ系は皆無。やはりトルコには住めない。

3.ハイセンスなワインショップ
 トルコのワイン事情に半ば諦めかけていたが、イスタンブールの若者に人気のお洒落スポット・カドゥキョイでイケてるワインショップを見つけた。これは期待できるかも、とメモを片手にいそいそ入店。
 品揃えは地方に比べるとかなり豊富。フランスのボルドー、コート・デュ・ローヌ、シャブリ、アルザス、イタリアのアマローネ、NZ、チリ、アルゼンチンなど意外と揃う。やはりブルゴーニュ系は置いていない。個人商店、スーパーのみならず、お洒落な専門店にも置いてないならば、トルコではブルゴーニュ・ワインの需要はないのだろう。
 泡もの好きは世界共通、シャンパーニュならばあるに違いないと期待すると、店頭にはテタンジェのキュヴェ・プレスティージュ・ロゼ NV(しかもなぜかロゼ)のみ。価格は約13,000円と、日本で購入する場合の1.5倍以上。やはりトルコには住めない。


 ピノ・ノワールは一部地域では栽培されるようだが、今回10軒ほど回った酒屋では、1本も見かけなかった(ワイン専門店の店員がピノ・ノワールを知らなかったのには驚いた)。唯一、トルコ産ガメイの赤ワインを1種類だけ発見し、ツチノコを発見したかのごとく即座にゲットし、その後訪れたグルジアで開けた(香りがよく、ベリー系の軽やかな味わいで、グルジア人にも好評だった)。が、約2,000円と価格もそれなり。私の1晩の宿代とほぼ同じだなんて、エンゲル係数が高すぎる。やはりワインをがぶがぶ飲みたいなら、トルコから足を伸ばしてワイン大国ギリシャかワイン発祥の地グルジアへ足を伸ばす事をおすすめする。

 しまいには、EFESビールが1番!とジョッキを一気に飲み干して、グルジア行きの夜行バスに乗り込んだのであった。

 海のあお朱に交われば麦酒飲む

 




青山葉月プロフィール
青山葉月

 雛祭り&マダム・ルロワと同じ三月三日生まれ。ワインコラムニスト。
好きな俳句は同じ鎌倉出身の池田澄子作、「じゃんけんに負けて蛍に生まれたの」 シャンパーニュと日本ワインを偏愛し、ワイン中心の生活を送る。


ブルゴーニュ襟の乱れの麗しき はづき


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